One of 泡沫ブログ

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「やりがいのある仕事」という幻想

 

先日のエントリで言及したばかりだが、またしても買ってしまった森博嗣のお手軽新書。畜生。どうせ今回も似たような気持ちになるのはわかっているのだが、お布施は止められない。だが今回は少し発見があった。リンクを貼るためにアマゾンに行ってみたところ、ピントの外れたレビューをしている人が居たのだ。とても安心した。世間には、まだまだこういう「まともな」感想を持つ人が居たのだ。森博嗣に対しては、こういうツッコミをしてやらねばならんのだ。本来は。

 

本書は、例によって数日で書き上げた、何も調べていない「エッセィ」の類で、かれにとっては普段考えていることを余暇にまとめた「だけ」のお手軽本である。読んでみるとわかるが、ほとんどデータに当たっていないし、調べてもいない。門外漢の気安さから「いつもの」人生訓を垂れているだけで、ふつうは(かれの実績を知らなければ)噴飯物といっていいだろう。したがって先のアマゾンのレビューア氏のような感想を持つのが本来あるべきである。

 

しかし、森博嗣フリーク、いや、ストーカのわたしは、残念ながらもちろん異なる感想を持っている。「森博嗣よ、なぜ凡人に擦り寄ったのだ…」と。

 

最初の1章から3章まではあまりにも俗すぎる。例示するものも俗なら、われわれ凡人にわかりやすく書きすぎているのも癪だ。いい例えが思いつかないが、要するに松本人志に感じるような感覚である。たとえば次のような記述に、森博嗣フリークは深く落ち込むのだ。第4章で、かれはこれまでに得た読者などからの「お悩み相談」に対する答えを記しているが、この内容が既にわれわれにわかりやすくなっていて、それだけでもガッカリするのだが、さらに残念なことに、この章の終わりに「少々のフォロー」と題して次のように補足している。要約するほどの長さでもないので、ルール違反かもしれないが、この一節はまるごと引用してみよう:

 

 最後に少しだけ全体的な補足をしておきたい。

 仕事関係に限らないが、いわゆる「悩み相談」「人生相談」「進路相談」などにくる人の多くは、意気揚々とはしていない。どちらかといえば、落ち込んでいる上体だ。これは当たり前のことで、その状況をなんとか改善したいから、他者に縋ってくるわけである。そして、気持ちが沈滞しているときには、生理的にというか、人情的にというか、ようするに、「励ましてもらいたい」という無意識の欲求が高まっている。

 相談と言いながら、何が良くて何が悪いのかという論理や意見を聞きたいのではなく、ただ「頑張れ」「大丈夫だ」「君ならばできる」と応援してほしいのである。

 そういう人に対して、僕の回答は「冷たく」感じられるだろう。その冷たいと感じること自体が、相談ではなく応援を望んでいる証拠だ。はなから理性的な意見を聞こうとはしていない、感情的な後押しを欲しがっている姿勢だから、「意見」を冷たく感じ、あるときは反発してしまう。

 そもそも、意見には温かいも冷たいもない。温度を感じ取ろうとするのが間違っている。言葉で飾って、親しみを込めて話したところで、内容のない意見であれば、結局は何も問題を改善しない。

 これは、仕事でも同じで、「言っていることは正しいかもしれないけれど、あの言い方が気に入らない」なんて怒る人がいるけれど、それは、そう感じる人の方も悪い、と僕は思う。言い方ではなく、言っている内容、つまりメディアではなくコンテンツをしっかりと受け止めることが優先されるべきだ。それが仕事の本質ではないか。

 上司は、部下に気に入られるためにいるのではない。部下も、上司に気に入られるために働いているのではない。人から相談を受けて答えるとき、僕は、その人に好かれようとは思っていない(もちろん、相手を嫌っているわけでもない)。ただ、できるだけ正しく内容が伝わるように、飾らず簡潔に言葉を選んで答えているつもりである。

 わざわざこれを書いたのは、仕事の場でも、このような感情優先の勘違いから問題が生じることが多いからだ。

 

わたしのような俗物は、他者に対する自分の思いを容易に投影し、「こんな○○は本当の○○じゃない!」などと思ってしまうわけだが、こんな「当たり前」なことを、わざわざ補足するのは、森博嗣ではない!…と思う(笑)。これは、かれの成熟さの表れだといえるだろうか? わたしには、氏の老成にしか思えない。たぶん、キレていた頃の氏なら、こういうことは思っていても書かない類のことではなかろうか。というかそうであって欲しかった。手の届かない存在でいてほしかったというか。これでは、普通の人ではないか。

 

…などという詮無いレビューをしてしまうのは、おそらくわたしの不徳の致すところである。もはやレビューですらないしw まあ、いいや。