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世界保健機関、未承認薬の使用について「倫理的に妥当である」との見解を示す

西アフリカで猛威をふるうエボラウイルス病(EVD)の蔓延に際し、WHO(世界保健機関)はヒトに対して臨床のない未承認薬の使用を「倫理的に妥当である」との見解を示したそうです。

 

ジュネーブ時事】世界保健機関(WHO)は12日、西アフリカで感染拡大が続く致死率の高いエボラ出血熱に関し、効果や安全性が確認されていない開発段階のワクチンや治療薬の投与を認める指針を発表した。世界的に感染が広がるリスクを懸念した「緊急事態」であることを考慮。今回の感染での「未承認療法の提供は倫理上妥当」との認識を示した。


 治療ワクチンなどが見つかっていないエボラ出血熱に「実験治療」が容認されたことで、感染拡大の深刻さが改めて浮き彫りになった。

 WHOは、医学倫理専門家による指針で、実験治療の提供に当たり、(1)治療の透明性(2)インフォームドコンセント(患者への十分な説明と同意)(3)治療を受けるかどうかの選択―などを尊重するよう求めた。また、実験治療を行う上では、経過や結果の情報を共有する「道義的な責任」があると強調した。

 ただ限られた試験薬を誰が優先的に受けるかといった問題は、今後も議論が必要と結論付けた。8月末に再度開く会合で話し合う。

 ギニア、リベリアシエラレオネ、ナイジェリア4カ国での9日時点の感染死者は1000人を突破、感染者は1848人に上っている。WHOは8日、世界的に感染が広がる恐れがあるとして「緊急事態」を宣言したが、感染者の増加に歯止めがかかっていない。

 

未承認薬の投与容認=エボラ熱対策で「倫理上妥当」―WHO指針

 

今回のエボラ・アウトブレイクは過去最大級ということで、WHOも「緊急事態宣言」を発しています。 また今回の未承認薬の使用に関する声明はWHOのウェブページで参照することができたので、英語の勉強を兼ねて意訳を試みました。(内容の正確性には自信がないので、原文を参照ください)

 

エボラ熱(EVD)に対する未承認の介入に関する倫理的な考慮について

パネルディスカッション・サマリー

WHO宣言
2014年8月12日

西アフリカは史上最大かつもっとも甚大で複雑なエボラ出血熱アウトブレイクを経験しています。エボラのアウトブレイクは早期の検知や隔離、接触の追跡や監視、厳密な感染コントロールを促すアドヒアランス(医療従事者からの指示の積極的な追従)など、現在利用可能な介入を行うことによって封じ込めができる可能性があります。しかしその一方で、特定の治療法またはワクチンがウィルスに対して有効であると考えられています。

これまで数十年にわたり、EVDに対する薬、ワクチンの開発に多くの研究努力がなされてきました。このうちのいくつかについては研究室内において明確な効果がみられますが、人間に対する安全性およびその効果が確認されていません。2014年の西アフリカのアウトブレイク、高い致死率となっていますが、これに影響を受ける多くの人々が、患者の生命を救い、蔓延を防ぐために、この調査的な医療介入の迅速な利用を求めています。

こうした中で、2014年8月11日に、世界保健機構は諮問を召集し、未承認介入の潜在的な利用に関する医療意思決定に関して倫理的な方針を考慮し、評価することにいたしました。

諮問の結果、このアウトブレイクの特定の状況下において、および定められた特定の条件を満たした場合、潜在的な治療または抑制の効果がある可能性があるものとして、未だその効果および副作用について明らかでない未承認の介入を倫理的に正当であるとの合意に達しました。

この介入は、倫理的な基準を示す必要があります。これには、治療、インフォームドコンセント、選択の自由、秘密、個人の尊重、コミュニティの尊厳および関与の保護などすべての面における透明性を含みます。

これらの介入の安全性および効果を理解するため、諮問では以下のことを助言しています。患者を治療するにあたっては、モラルをもって、得られたデータをすべて共有し、「人道的な利用」(医療試験ではない未承認薬に対するアクセス)を提供することを義務付けられるものとします。

諮問会議は、これらの介入(試薬)の使用が、試験的な介入の安全性および効果について投与時期および正確な情報を確認するため、どのように科学的に評価されるかについて調査しました。全会一致をもって(治療または抑制として)これらの介入(試薬)を評価することはまた、確実に安全性および効果を確認する、あるいはその使用を取り止める証拠を提出するため、この状況下においては最も可能性のあるものとして、医療的な試験利用は我々の倫理的な責務であると考えています。目下実施される評価は将来の介入(薬)の大きな指針となると考えています。

これらの助言に加え、諮問会議では以下の領域についてはより詳細な分析および議論が必要であるとしてます:

・蔓延が広がる状況下で最適な治療を実施するために尽力する際、倫理的にデータを収集する方法

・未承認の試験療法およびワクチンの利用において優先順位を設定する倫理的な基準

・コミュニティおよび国家間における公平な展開を達成するための倫理的な基準。可能性のある新たな介入(薬)が増えているが、短期的には需要を満たすことができそうにない状況であるため。

継続中の会議は2014年8月17日に公開されます。

(後略)

 

Ethical considerations for use of unregistered interventions for Ebola virus disease (EVD)

 

日本のように需給がほとんど常に満たされる恵まれた環境では感覚が麻痺してしまいますが、「誰に優先して受けさせるか」「副作用で逆に死に至ったりするのではないか」など、倫理的にも高度な判断が要求される、非常に難しい決断であったと思われます。耳学問ですが、緊急医療においては「トリアージ」という難しい課題があるそうですが、まさにこれのことだと思われます。

 

今回のエボラ・アウトブレイクでは、日本にも入ってくるのか、水際対策は十分か、日本でもアウトブレイクを起こす可能性があるか、などが議論されています。かつて1976年の最初のアウトブレイクで献身的な治療を行い、封じ込めに貢献したピーター・ピオット氏は次のように述べています:

 

In the absence of any vaccine or cure, the advice for this outbreak is much the same as it was in the 1970s. "Soap, gloves, isolating patients, not reusing needles and quarantining the contacts of those who are ill - in theory it should be very easy to contain Ebola," says Piot.

In practice though, other factors can make fighting an Ebola outbreak a difficult task. People who become ill and their families may be stigmatised by the community - resulting in a reluctance to come forward for help. Cultural beliefs lead some to think the disease is caused by witchcraft, while others are hostile towards health workers.

"We shouldn't forget that this is a disease of poverty, of dysfunctional health systems - and of distrust," says Piot.

 

有効なワクチンや治療薬はないが、エボラのアウトブレイクに対するアドバイスは1970年代とまったく同じだ。ピオット氏は「石鹸、手袋、患者の隔離、注射針の再利用をしないこと、病人との接触を防ぐこと。定石どおりやれば、エボラの封じ込めはけっして難しいものではないのです」と語る。

しかし現実には、他の要素がエボラとの戦いをより困難なものにしている。エボラに罹患した人々やその家族は、共同体から「スティグマ」を押されてしまい、結果、積極的に助けるということが躊躇されてしまう。また、ある人は土着の信仰により、この病気が魔術によって引き起こされたものと信じ、またある人は医療従事者に対して敵意をあらわにするものもいる。

 「我々はこの病気が貧困の病、医療システムの機能障害による病、そして不信の病であることを忘れてはならない」とピオット氏は語る。

 

The virus detective who discovered Ebola in 1976

 

我が国は世界でも有数の「清浄な」国であり、その清潔性に対する執着は世界から見ると異常なほどです。しかしながら、逆にそれが作用する可能性もあるかもしれません。さすがに「魔術によるもの」と信じる人は居ないかもしれませんが、「政府の陰謀によるものだ」「米帝の陰謀だ」「ユダヤの陰謀だ」などと信じる人は一定数居ます。また、その清潔さに対する異常な執着(そもそもの原因は「穢れ」を忌避する土着信仰=神道によるものと思われますが)から、「スティグマ」がより強化されてしまう可能性はなきにしもありません。杞憂であれば良いですが。

 

今回のWHOの判断が、より良い方向へ繋がることを切に願っております。