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兵士は起つ

 

杉山氏の自衛隊に関する著作は、本書を除けばこれまで都合3冊ほど読んだことがあり、どれも非常に感銘を受けたように思う。残念ながらかなり昔のことなので、内容はおぼろげにしか覚えていないのだが、それぞれ陸、海、空について取り上げた秀逸なノンフィクションであったと記憶している。「日陰者」として国民から複雑な目で見られ続けていた我が国軍、すなわち「自衛隊」という組織が、緻密な取材によってこれまでとまったく違った角度からライトが当てられるといった趣で、おそらく極端に偏向した左翼でもない限り、今までとは違った自衛隊像を目撃するに違いない。正直言ってかなりお勧めのシリーズなので、未読の方はぜひ手に取っていただきたいと思う。

 

 

さて本書『兵士は起つ』は、たまたま帰省したときに立ち寄った地元の本屋で見つけ、久々に目にした杉山氏の名前につられて買ってしまったものだ。ここのところ、こうした類のノンフィクションから遠ざかっていたので、移動中の暇つぶしになるだろうという軽い気持ちで求めたのだが、読んでビックリ、これは東日本大震災に際して災害救助に当たっていた当時の自衛隊隊員から取材した内容であった。一言でいうならば、重い。非常に重い。とくに、登場人物たる隊員たちの中に同世代(30代)が多く登場し、彼らの家族をめぐる描写などは、お盆で空いた通勤電車の中で読んでいたら不覚にも涙が出そうになってしまった。この時期報道が活発になる「御巣鷹山」の回顧も相俟って、あらためて生と死は紙一重であり、人はいつどこで死ぬかわからないということを深く考えてしまった。

 

自衛隊をめぐっては、昨今の安倍政権憲法改正の動きをうけて、にわかに左翼が活発な言論活動をしているのが目に付く。これについては言いたいことが山ほどあるわけだが、今回はそれは措くとして、本書で不覚にも「頭にきた」記述があるので、引用して終わりにしたい。

 

もう半世紀以上も昔の話だが、のちのノーベル賞受賞日本人作家*1が、彼と同じ年頃の防衛大学校生を捉えて、『ぼくは防衛大生をぼくらの世代の若い日本人の一つの弱み、一つの恥辱だと思っている』と、およそ一級の文学者とは考えられないような、相手の人格をも否定する、薄汚い蔑みの言葉を投げつけたことがあった。さらにこの作家は止めの一撃[クー・ド・グラース]のようにして、『そして、ぼくは、防衛大学の志願者がすっかりなくなる方向へ働きかけたいと考えている』と書き留めたのである。

*1:おそらく故あって名前を伏せたのであろう、この「日本人作家」とは、言うまでもなく「戦後民主主義」を代表する「進歩的文化人」の一人、大江健三郎氏である。こうした左翼活動家の侮辱的な発言と、自らを神の視座に置く偽善的態度は、まさに「日陰者」の扱いをうけてもなお、国益を忘れない鬼っ子である自衛隊とは正反対といえよう