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考える生き方

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[極東ブログ]や[finalventの日記]で著名なアルファブロガーであるfinalvent氏、通称「終風翁」が、ついに本を出した。といっても、わたしはその正体をしらないので、おそらく本業ではすでに出版されていると思うのだが、とにかく、finalventとしてははじめての本だ。

 

2,3日前にTwitterでさりげなく告知していたので、フライングしている本屋はないだろうかと探していたのだが見つからず、結局発売日に手にすることになった。で、すぐ読んだ。

 

内容は…よくある老人の自分語りである。…と、ご本人が言っているのだからそうなのだろう。そういえば、翻訳家の山形浩生氏が、こんなことを書いていた

 

だれが何を求めてこの本を読むと思ったのかまったくわからない本と言うしかない。マーケティング不明で、その一方で読者をまったく無視した得体の知れない発狂本(いい意味で)でもない。歳寄りがよく、自費出版でだれも読まない自伝とか警世の書を出したりするが、まさにそんな感触。むろん、ぼくが知らないだけで、アルファブロガーにあこがれる人もいるのかもしれず、その教えを求める人もいるのかもしれないけれど。No thanks, not for me. 彼はもちろんぼくなんかのために書いたわけではないが。

 

なるほど(笑)、うまいことをいうものだ。たしかに、これはfinalventという気難しく皮肉屋の、友達にするには相当やっかいそうな「こじらせた爺さま」のことを少しでも気になっている人しか買わないだろう。インターネットで少々有名というのも、一般にはほとんど何の意味もない。そういう「無名な人」の書いた自伝など誰が買うのかというのは妥当な疑問だろう。

 

しかしまあ、山形先生は「だれに向けて書いた本かわからない」というが、マジレスすると、この本は、何者にもなれないことを自覚しつつも、それでも生きていくんだ、という諦念のようなものを抱えながら生きている凡人に向けて書いた本である、と回答して差し上げたい。(だから何なんだ、と言われるだろうがw)すなわち、山形氏のような超人にはとてもなれないことはわかっちゃいるし、ああ負けちゃったなとか、もうだめだとか、俺なんて取るに足らないなとか、結局何にもできなかったなとか、そういう挫折感にまみれているけれども、それでもまあ生きていきたいな、自分の人生を肯定したいな、というような感覚を書いてくれるだろう、という期待を持った人に向けて書かれたものだと思う。

 

もうすこし簡単にいうと、finalventというおっさんに、自分を重ね合わせているもっとダメなおじさん、あるいはおじさん予備軍に向けたものなのだ。なぜなら、もっとダメなおじさんたちは、こういうことを語りたくても、語るすべも持っておらず、語りきるほどの熱意も根気も知性もないからだ。「それでもfinalventなら…finalventならきっと何とかしてくれる。」ということなのだ。わかるかなw

 

著者は繰り返し自分のことを敗者とか負け組だというが、読み進めていくとわかるように、かれが負け組だとすれば世の中の殆どの人は負けてすら居ない、ゴミのような存在ではないかと思うだろう。じっさい、本を出版できるという時点で既に一般人から大きく逸脱している。知的産業に従事していると、上には上が居ることが当たり前になってくるせいで、こういうむやみに厭世的な気持ちになるのかもしれないが、まあ、そういうメタなレベルでの葛藤がなければこんな本は書かないよね。たしかに、一般人ならもう少し俗なところで自意識と折り合いをつけて、決着をつけているとは思う。そこらへんに関してだけは、自分などは普通の勤め人が続けられる性質があって救われたかなぁと思う。

 

本書はながらく謎に包まれていたアルファブロガーの正体が書かれている。もっとも、本名とか、顔写真とか、そういう類の個人情報は書かれていないから、ある意味では匿名のままなので、期待する人はがっかりするかもしれない。しかし、本書を読み終えて尚、そういうつまらない次元で「正体」を云々する人はあまりいないだろう。名前というならfinalventという記号こそが名前である。つらつら考えるに、よくもまあこんな属性を今まで隠していたものだな(笑)、こういう正体不明の書き手には、たとえば結城浩氏だとか橘玲氏だとかいうのがいるが、属性を一切切り売りせずに文章を書き続けられるというのは本当に凄いことだと思う。

 

さて、最後に。こんな泡沫書評をご本人が見るとは思えないが…万一、見つかったときのことを考えて、一つだけ著者にお願いしたいことがあるので書いておこう。「はやくイザヤ・ベンダサンについての謎解き本を書いてください。」宜しくお願いします。