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投資家が「お金」よりも大切にしていること

投資家が「お金」よりも大切にしていること (星海社新書)

投資家が「お金」よりも大切にしていること (星海社新書)

 

レオス・キャピタルワークスのCIO(最高運用責任者)の藤野英人氏が著したライトな新書。本書は、長年、投資の世界に身をおいてきた著者が、若者に向けて「お金」「投資」について真剣に考えてもらいたい、そういう思いから書いたとのことである。

 

著者は冒頭から次のように説く。日本人は「カネ」について語ることは伝統的に「キタナイ」ことだと考えている一方で、その実は誰よりも「カネ」に執着している。同じような理由で、誰よりもカネが欲しいと思いながらも、カネ儲けをする行為、すなわち商売を本質的にキタナイ行為であると考えている。商売に対するスタンスも、本質的にはとても不真面目で、結局のところ、日本人がこの世で信じているのはお金だけではないか、と。

 

本書を貫く問題意識は、日本全体にはびこるこのネガティブな「お金に対するイメージ」「金融・投資に対するイメージ」を払拭し、より良い未来を、より良い日本を作っていきたい、というものだ。

 

後半、著者は「投資」というものを次のように定義している:

 

投資とは、いまこの瞬間にエネルギーを投入して、未来からお返しをいただくこと

 

わたしは以前「ポジションを取るということ」というエントリを書いたことがあるが、この発想はもしかしたら藤野さんに大きな影響を受けていたのかもしれない。われわれの行っているすべての活動は、広い視点で見れば、時間やお金という有限のリソースを何に向けて使い、将来、どのようなリターンを期待するか、という活動ともいえる。これはまさに著者の説く話と同様である。おそらく、氏の書いたものをどこかで読み、強く影響を受けたのであろう。 

 

だが、さいきん流行の「意識の高い」感覚で言えば、こういう発言も単なる「ライフハック」に聞こえてしまうかもしれない。もちろん著者はそんなことは百も承知なのか、続けて次のように書く:

 

「藤野さんが言いたいことは、要は自己投資のことですよね?」

そう思われる方もいるかもしれませんが、自己啓発的な「自己投資」と、私の考える「投資」は、ちょっとニュアンスが異なります。

一般的な「自己投資」は、

「いちばん効率の良い投資は、株式投資や不動産投資ではなく、自分自身に対する投資だ。会社が潰れても、スキルを身につければ一生食っていけるし、自分に投資することでお金持ちにもなれる」

 みたいなノリで、要は「この厳しい世界をサバイブする」「勝ち組・お金持ちになる」といったことが目的になっています。

 

これに対して、著者はこう説く:

 

それに対して、私の考える投資の目的はただひとつ、 「世の中を良くして、明るい未来をつくること」

 

なんとも青臭い話である。とても「金融クラスタ」の人間とは思えない。しかし、本書を読み終えた今(実際にはもう少し前からだが)、わたしはこの著者の話を信じてみたい、と思っている。実際、わたしはすでに著者が取締役を務めるレオス・キャピタルワークスが運営する「ひふみ投信」に口座を開設し、なけなしの現金を元手にいくばくかの投資をしている。その背景には、資産を増やしたいという色気も勿論あるにせよ、著者の考えに共感し、自分の資産を使って世の中の良い企業に投資したい、という気持ちになったからでもある。

 

 

とはいえ、実際はこんなに甘い話が本当にあるのだろうか?と訝しむのはわたしだけではあるまい。金融業界にはそのものずばり「ポジショントーク」というものがある。いうまでもなく、自らのポジションに有利な内容を公的に発言するというアレだ。この場合、著者はレオス・キャピタルワークスのファンド・マネジャーという立場なので、当然、自社の投資信託に勧誘したい、投資して欲しい、という動機付けがあるはずである。この本の内容も「こんなこと言っているが、要するにイマドキのちょっと意識の高い20代30代の連中に向けたマーケティングなんじゃないの?」と思ってしまうのも、むべなるかな、であろう。

 

またわたし自身、すでに述べたようにひふみ投信にいくらか投資しているわけで、言ってみればある種の「利害関係者」的な位置づけにあるわけだ(ステマではありませんが)。こういう本を読むのも、認知的不協和を解消したいがための活動なのかもしれず、必然的に、著者の言っていることを信じたいというバイアスが働いている。

 

わたしは、どちらかというと「純朴」な人間で、かつ頭が悪いので壺売りにに騙されるタイプなのだが、そんなわたしですら、こうした「希望に満ちた」発言を頭から素直に信じるには相当勇気が要る。端的に言って、投資信託とは元本割れするリスクがある金融商品で、かつ運用資金の数パーセントを信託報酬として支払う必要があるものだ。また、上手い話なんてあるわけないのだから、本当に信頼に足るファンドなのかどうかは、今後もよくよく見ていかなければならないだろう。

 

そういう複雑な心象があるにせよ、本書は素晴らしい内容だと思う。著者の言うように、本書はこれから社会に出ようとする10代、20代の若者にこそぜひ手にとっていただき、より良い日本を作るきっかけとなってくれればいいなと思っている。