One of 泡沫ブログ

世の中にいくつもある泡沫ブログの一です。泡沫らしく好き勝手書いて、万が一炎上したら身を潜めようと思います。※一部のリンクはアフィリエイトです

実践・日本人の英語

 

日本人の英語 (岩波新書)』や『続・日本人の英語 (岩波新書)』、『日本人が誤解する英語 (知恵の森文庫)』などで、英語学習者にはおなじみマーク・ピーターセン氏の英語本である。『日本人の英語』はこの上ない良書で、およそ日本人の英語学習者でこれを知らない人はモグリといっていいだろう。本書はこれに連なる続編であり、「実践」と銘打ってあるとおり、氏のこれまでの経験を加味されてさらに「日本人にとっての英語のノウハウ」が凝縮されている。基本的に自習しかしていない英語学習者にとっては必ずやプラスアルファの知見が手に入るはずだ。

 

あとがきをみると、『日本人の英語』が出てからもう既に25年の歳月が経ったという。念のため確認してみると、わたしの手元にある第58刷(2009年2月発行)の初版はたしかに1988年とある。25年。決して短い時間ではない。著者は25年前と比べて日本人の英語がどうなったのか、こう述懐している。

 

 私の最初の著書『日本人の英語』を上梓してから25年がたった.四半世紀を経て,日本人の英語はどうなっただろうか.(中略)毎年新しい大学生と接し,1人1人をみていれば,たしかに1年前,2年前よりはよくなった(こちら側の自己満足かもしれないが),と思うことは多い.しかし,残念ながら,私が接する大学生の英語力が全体として,毎年少しずつ向上してきているなあ,とはなかなか感じられない.もちろん,これは彼らの勉強の足りなさのせいばかりにはできないと思う.英語の学び方にも(教え方といってもいいが)足りないところがあるだろう.(中略)ここで指摘していることは,25年前の本とあまり大きく変わっていないともいえる.それは25年前と同様,日本語という言語の特性からくる問題が大きいからだろう.(以下略)

 

昨今、TOEICだグローバルだと喧伝され、猫も杓子も英語英語という世相である。だがその中にあって、わたし自身も含め、日本人の英語運用能力は全体として向上しているのだろうか? 著者の指摘に乗っかるようで恐縮だが、していない、というのがわたしの実感である。世の中には横文字が溢れ、インターネットなどの発達で英語に触れる機会は爆発的に増えたにもかかわらず、具体的な英語の運用能力が向上したとはあまり感じられないというのが大勢の実感ではないだろうか。もちろん一部の上位層はまた趣が異なるのであろうが、ここで議論したいのはわたしのようなボリュームゾーンの、いわば一般の人間の英語運用能力である。

 

電車の広告には英会話スクールの広告があふれ、書店に行けば英語の本だらけ。さまざまなメディアでもグローバル化つまり英語、という文脈がこの世には溢れかえっているが、実際、仕事で英語を必要としている人は殆どおらず、そして、英語を運用する人間もたいして増えていないというのが実情であろう。成毛さんが喝破しているように、大多数の日本人にとって英語はこれからも必要がないのであろう。人口が半分になり、GDPが現在の3分の1くらいになればまた状況も変わってくるかもしれないが、基本的に今の状況で英語が必要になるというのはよほど特異な環境にある人のみであろう。必要のないものは勉強しない、当然の帰結というべきであろう。

 

ということで、本書はどちらかというと英語学習の副読本としては少し硬派過ぎるきらいがあるように思う。おそらく想定する読者レベルもエントリクラスではない。(ある程度、文法がしっかりできる人でないとイマイチ面白くないと思う) したがって本書はビジネスなどで実際に英語を運用する必要性に直面している人、英語や日本語という言語そのものに関して興味がある人、子供が公の英語教育に苦しんでいる親などにオススメしたいように思う。