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低欲望社会 「大志なき時代」の新・国富論

 

久々に大前御大の著作を読んでみたが、あいかわらずこのオッサンは何も変わっていない(ほめ言葉)と感ずる一冊だった。文中にもあるがこのオッサンは72歳なのである。あと数年したら「後期高齢者」の仲間入りをするはずのオッサンが、修造ばりの熱気で熱く語っているのだ。このオッサンはおそらくワーカホリックが習い性になっていて、マグロのようにずっと泳ぎ続けていないと死んでしまう病気にでもなっているのではないか。結果、異様に若々しいままいつまでも現役で、若手のポストを奪いまくっている(笑)。

 

本書は『週刊ポスト』や『SAPIO』といった小学館系の雑誌の再録+書き下ろしというリサイクル本のようだが、最近、大前節から遠ざかっていたわたしのような読者にとっては、ここ数年の大前オピニオンのダイジェストといった趣で非常にリーズナブルな一冊であった。いくつか重複もあったが、全体として丁寧に編集されている感がある*1

 

相変わらず前置きが迂遠で自分でも駄目なブログの典型例だなという気がするが、それはさておき、本書は大前研一のみた現代日本の課題一覧とその処方箋である。主としてマクロな分析と提言が殆どなので、政治家や大企業経営者ではない一般人にはあまり参考にならないものが多いのかもしれないが、世の中の流れを大づかみするという意味で、ここからミクロな指針を引き出すことも可能だろう。少子高齢化社会保障費用の爆発、介護離職などの人口動態による影響や、アベノミクスによる株高を下支えしている配当金の「相場」による買い支えや、日銀による金融緩和やGPIFのポートフォリオ変更などによるメカニズムは我々庶民にも多少は参考になるかもしれない。

 

それにしても、御大の本は非常に分かりやすい。何がどう分かりやすいのかはテクニカルに分析できないのだが、よく文系学者などがやたらと高尚な文体に拘って迂遠なレトリックを多用している例などを対比してみると、つまりは色んなことを断言している(あまり判断を留保せず言い切っている)ところが「分かりやすい」理由なのではないかと思った。コンサルのプレゼンのごとく、読者は大前コンサルタントの提示するさまざまなプレゼンの是非を判断しなくて済むように作られているから、読むのがラクなのではなかろうか。御大が次から次へと提示する提案を読んでいると、たしかにこれで日本が立ち直りそうな気がしてくるから不思議だ(実際はそんなにうまくいくこともあるまい)。

 

御大はかつて都知事選で青島氏に惨敗を喫し、そのときの記録である『大前研一敗戦記』で、加山雄三氏に面白いことを言われたと聞く。同書は絶版となっているため*2、わたしは残念ながらこれ、未読なのだが、Amazonのレビューによると、加山雄三氏に「いかに理想が高く、その目的が崇高なものでも、人を動かすにはその”心”に触れなくてはならない。」とたしなめられたらしい。

 

これは面白い…というと怒られるかもしれないが、非常に興味深いエピソードではある。頭の回転が速く、さまざまなものが見通せる大前氏に言わせれば、1000万都民の「鈍重さ」は受け入れ難いものであったに違いない。だが、それと同じくらい、都民にとってもこうした「情が感じられない論理の男」はさぞ鬱陶しいものであっただろう。氏は二度と政治の世界には戻ってこないと聞くが、もし御大があの時期に都知事となっていたらどうなっていただろうか? 「弱者切捨て」「人間味がない」ともの凄いバッシングであっさり退場となっていたかもしれない。逆に言えば、氏のような「政治家」を、まだまだこの国は必要としていないということであろう。本書もそうだが、氏がいくら警鐘を鳴らそうとも、なんだかんだ茹で蛙のまま延命できているニッポン経済。タイムリミット、すなわち「ハイパーインフレ」までの余命はまだまだあるのかもしれませんね。

*1:しょうもないことだが、こうしたリサイクル本の初版では、もの凄い初歩的なタイポやあきらかな重複、単行本化に際しての編集などができていない場合がある。やはり大手だけあるということかw

*2:版元はぜひこれを文庫で出して欲しい。御大のファンは絶対買うはずで、そこそこ売れると思うのだが…