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小説家になって億を稼ごう

 

ここのところ忙しくて2年くらいゆっくり本を読む時間がなかったが、たまたま寄った近所の本屋で見つけて、一気に読んでしまった。Kindleで買うと買ったことすら忘れてしまうが、紙の本だとタイミング次第で一気に読めるものである。寄る歳並みのせいであろう。

 

さて本書『小説家になって億を稼ごう』は久々に書評を書きたくなった作品なので、リハビリを兼ねて駄文を弄してみたい。

 

この手の業界の裏側を構造的に解説するいわゆる業界ハウツーものは意外とよく見かける。外野からすれば、対象読者が限られるためにあまり売れ行きが期待できない気もするのだが、なかなかどうして、根強い人気があるのだろう。あの敬愛する森博嗣大先生も似たような本を出していたくらいだから、やはりベストセラー作家本人が語る言葉には需要があるということか。そういえばわたしはスポーツは全くみないが、プロスポーツ選手の仕事論は好んで読む傾向にある。ある程度抽象化すると、プロフェッショナルの仕事論やハウツーには業界を超えて幅広い気づきというか需要があるということではなかろうか。

 

 

『小説家になって億を稼ごう』には、前半に小説の書き方が書いてある。おそらく想定読者の大半が期待するのはこちらの方だろう。このフレームワークは実際よくできていて、これに則って書けばわたしでも何か一つ書けるような気がしてくる。筆者の説明は大したものだと唸らされる。

 

ところが、後半はどちらかというとサラリーマンの仕事術のようなものが書いてある。売れた後の心構え、二作目の出し方、契約や税金との付き合い方、編集者や他のクリエイター(映画監督やプロデューサー)との付き合い方など、もはやビジネス書といった趣である。わたしのようなサラリーマン稼業からすればこちらの方がリアルで面白い。はっきりと書いてあるわけではないが、「創作といったところで、相手もビジネス、こちらもビジネス」ということを再三突きつけられているようで、ピュアな創作者が一番苦手なところだろう(笑)。創作の副作用として、脳内で自意識が肥大化しやすいのは致し方ない気もするが、それを嗜めているところにプロフェッショナリズムを感じる。

 

例えばこういう記述は面白くて仕方がない。

 

映像化の問い合わせがあったと聞いても、けっして興奮しないでください。これが貴方にとって初めての映像化依頼であれば、胸が躍るのも無理ありませんが、現段階ではまだ問い合わせにすぎません。モデルルームを訪ねた家族が「購入を検討している」と言うのと同じです。冷やかしの可能性もあると理解してください。(本文214ページ)

 

他にⅡ部の2章「編集者との付き合い方」は、いわゆる業界処世術であるが、サラリーマンのわたしからしても、頷けるところが多い。サラリーマン稼業に通ずるところが多く大変興味深い一冊だ。一読の価値ありである。

 

森先生も言っていた*1が、エンターテイメント作家というのは「創作者」であると同時に、出版というエコシステムの中におけるコマの一つに過ぎないということであろう。客観的に見れば当たり前のことなのだが、小説という一種の「芸術作品」の芸術性にばかり着目すると良くないということだとわたしは受け取った。作家性や芸術性を発揮するためには、その前にまず自分が置かれた市場の構造を理解し、読者(消費者)の需要に応えて商品を生産し続けるプロフェッショナリズムが求められているということだろう。つまるところ、作家性とかクリエイティビティーとかいう前に、まず最低限クリアしなければならないのは以下のようなポイントなのであろう。

 

  • 締め切りを守って
  • 消費者の需要に応える商品を作り
  • それを継続的に行う

 

逆にいうと上記が守れる人は、安定感があるということで声をかけやすくなるということだ。これはサラリーマン稼業と同様で、よほど一握りのトップタレントでもない限り、依頼主や顧客から見て声のかけやすい営業の条件と重なる。そう考えると、作家を含む専業xxになる前には、むしろキャリアの最初にはサラリーマン(営業)をした方が良いのではないかとすら思うほどである(笑)。良い商品を作ることは必要条件であるが、黙っているだけでは売れないのである。

 

ちなみにわたしは松岡氏の名前は聞いたことがあったが、著作を読んだのはこれが初めてだ。わたしのように比較的活字を追うのが好きな人種でも、文芸のマーケットには引っかかっていないのである。そう考えるとマーケットの小ささに改めてびっくりするが、そんな限定された市場でも、当たれば年収一億を超えるというのは大変に夢のある話だ。敬愛する森先生も、38歳で始めた「アルバイト」で年収数億超えたのだ。始めるのに遅すぎるということはない。さあ、今日から貴方も小説家を目指し、処女作に取り組もう。

 

*1:と記憶に頼っているだけで、出典にあたったわけではない