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【書評】中間管理録トネガワの悪魔的人生相談

 

本編のカイジヤンマガ本誌でしか読んでいないが、スピンオフギャグの『中間管理録トネガワ』と『一日外出録ハンチョウ』はなぜか単行本もつい買ってしまう。

 

『トネガワ』も『ハンチョウ』も完全に悪ノリのスピンオフだが、両者とも『カイジ』の世界観をネタにしたメタな視点でのパロディーを繰り広げてくるので、もはや本編の『カイジ』がギャグにしか見えなくなってしまった。『北斗の拳』や『魁!男塾』などでもそうなのだが、荒唐無稽なハードボイルド設定は一歩間違えるとギャグにしかならないので、制作サイドとしてはそのバランス感覚が重要なのであるが、昨今はむしろ制作側が開き直ってメタ的なパロディーを大っぴらにやってしまうケースが多い。

 

これはビジネス的に「売れる」からであろうが、正直言うと読者のほうも、制作サイドにこれを大っぴらにやられると、本編を読むときのテンションも下がってしまう。これは如何ともしがたい。しかしこれも、ビジネス的な観点で昨今の出版業界やコンテンツ界隈では致し方ない傾向なのであろう。似たようなシリーズに、『金田一少年』や『転生したらヤムチャ』などがある(他にもたくさんあると思う)が、商業誌のセルフ二次創作はとどまるところを知らない笑。わたしのようなロスジェネ世代に向けた「懐古厨ビジネス」といったところであろう。

 

さて本書はその『トネガワ』のさらなるスピンオフシリーズで、いわばスピンオフのスピンオフと言える。体裁としては、帝愛のナンバー2である利根川幸雄が読者からの相談に答えるというもので、我々世代にはかつて『ホットドックプレス』で人気を博した北方謙三大先生の『試みの地平線』みたいなものだと言えば伝わるのではなかろうか。相談者がどこまで本当の相談者なのか、全編ネタなのかは知らないが、非常によくできた「あるある」の相談ネタ25本からなる、なかなかのボリューム感で読みごたえがある。

 

率直に言って最初はただのネタ本だと思いあまり期待せず読み始めたものの、意外にも硬派な回答が多く、ビジネス書としてはなかなかの迫力があった。実際、人生も折り返しに差し掛かったわたしのようなロートルからみても頷ける内容が多い。乱暴にまとめると、読者からの甘えた相談に対し、リアリスティックな視点でトネガワ節をぶつというパターンが延々続くというものではあるが、自分の人生が上手くいっていないくせに、他人にはやたら居丈高になる我々のようなロスジェネ世代にはピッタリの清涼剤となるだろう。

 

一点気になるのは、多少、わたしの中での「トネガワ」が言いそうなセリフと微妙に乖離した言い回しが多いことである。ちょっと、トネガワっぽくないのである。それを措けば、福本シリーズに親しむ諸氏にとっては概してお勧めできる一冊である。