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世の中にいくつもある泡沫ブログの一です。泡沫らしく好き勝手書いて、万が一炎上したら身を潜めようと思います。※一部のリンクはアフィリエイトです

バイオハザードで英語の勉強 その2

前回、面白半分で大好きなウェスカー隊長の告白を題材に書いてみたところ、意外と勉強になったので、もう一回やってみたいと思います。今回は、『バイオハザード2』で3番目くらいに好きなアネット・バーキンのラストシーンです。マニアックに思われるかもしれませんが、バイオハザード恒例の「施設爆破システム起動メッセージ」が流れる屈指の名シーンなのです。

 

ではまずスクリプトから。例によって引用元はこちら

 

Annette: You! You murdered my husband! I know what you’re looking for! You came for the G-Virus didn’t you! You won’t take it from me! This is my husband’s legacy! Now, where’s that spy you were working with earlier, you know who I’m talking about.

Leon: What?

Annette: You really don’t know anything do you! Hahaha, you’re so gullible! She’s one of the operatives sent here by the agency. The only reason why she came here was to obtain the G-Virus.

Leon: That’s a lie.

Annette: No it’s the truth. I discovered this when I did a background check on her. She specifically got close to John and became his girlfriend to get information about umbrella.

Leon: That can’t be! I know her; Ada wouldn’t do something like that!

Annette: If you don’t want to believe me I don’t care, your about to die anyway.

 

Annette: What happened?

Computer Voice (V.O): The self destruct sequence has been activated! Repeat, the self destruct sequence has been activated! This sequence may not be aborted! All employees proceed to the emergency car at the bottom platform!

 

では次は日本語字幕です。

 

Annette: You! You murdered my husband! I know what you’re looking for! You came for the G-Virus didn’t you! You won’t take it from me! This is my husband’s legacy! Now, where’s that spy you were working with earlier, you know who I’m talking about.

よくも夫を!

分かってるわよ

G-ウィルスが目当てね

でも 夫の遺産を簡単には渡さないわ!

所で…一緒にいた女はどこに?

お仕事中かしら?

 

Leon: What?

何?

 

Annette: You really don’t know anything do you! Hahaha, you’re so gullible! She’s one of the operatives sent here by the agency. The only reason why she came here was to obtain the G-Virus.

あんた 何も知らないの?

おめでたいわね!

あの女は ある組織の工作員

G-ウィルスを奪うために送られたスパイさ!

 

Leon: That’s a lie.

ウソだ

 

Annette: No it’s the truth. I discovered this when I did a background check on her. She specifically got close to John and became his girlfriend to get information about umbrella.

本当よ

ここで情報を引き出して分かったわ

研究員のジョンに近づいて――

アンブレラの情報を盗み出していたのよ

 

Leon: That can’t be! I know her; Ada wouldn’t do something like that!

そんなバカな!

彼女はそんな女じゃない!

 

Annette: If you don’t want to believe me I don’t care, your about to die anyway.

そんな事はどっちでもいいわ

お前は もう死ぬんだから!

 

Annette: What happened?

何が 起きたの?

 

Computer Voice (V.O): The self destruct sequence has been activated! Repeat, the self destruct sequence has been activated! This sequence may not be aborted! All employees proceed to the emergency car at the bottom platform!

爆破装置が作動しました

繰り返します

爆破装置が作動しました

停止する事は出来ません

研究員は最下層のプラットフォームから非常車両で脱出して下さい

 

 

 

続いて解釈です。

 

Annette: You! You murdered my husband! I know what you’re looking for! You came for the G-Virus didn’t you! You won’t take it from me! This is my husband’s legacy! Now, where’s that spy you were working with earlier, you know who I’m talking about.

よくも夫を!

分かってるわよ

G-ウィルスが目当てね

でも 夫の遺産を簡単には渡さないわ!

所で…一緒にいた女はどこに?

お仕事中かしら?

 

murder は殺害する、という意味のやや硬い言葉です。この言葉を聞くと、アラサー世代のわたしとしては『魍魎戦記MADARA』を思い出します。関係ないですね。

 

次の "I know what you're looking for" は、関係代名詞 what に、次の you're looking for がかかって、「あなたの探しているもの」です。「あなたが何を探しているかはわかっている」という感じでしょうか。

 

"You came for the G-Virus" はやや口語的な感じがしますが、この for は日本人にも馴染み深い「~のために」という意味でよいのではないでしょうか。didn't you? はいわゆる「付加疑問文」というやつで、主文にかかる動詞の省略形で文末にかかってくるアレだと思われます。「~ですよね?」という感じのあれです。

 

"You won't take it from me!" も文章自体は非常に簡単ですが、英語独特の表現という気がします。日本語だと、この字幕もそうなっていますが「(私は)あなたに渡さないわ!」というニュアンスですが、英語だと主語は you になっているところが難しいと感じます。敢えて日本語的に言うとすれば、使役動詞のhaveなどを使って "I never have you take it from me!" というような感じになるんでしょうか。よくわかりませんが、なんとなく不自然な印象があります。ここはやはり "No one will take it" とかのほうが自然なんではないでしょうか。理由は分かりませんが…。

 

次の "Now" は、間投詞的に使われているのでしょう。別に「今は」という意味ではないと思われます。実際、字幕でも「所で…」になっています*1。 "you were working with earlier" が一つ前の spy にかかっていて、さっきまで一緒に居たスパイ、ですね。こういう後置修飾はうまく使えるようになるとかっこいいです。続いての you know who I'm talking about ですが、ここでは関係代名詞の who にかかっています。いわゆる「目的格」というやつなので、whom を使って良いパターンでしょう。「わたしが誰のことを言っているか、わかるわよね?」というような意味でしょう。

 

では以上を踏まえて直訳してみます。

 

 You! You murdered my husband! I know what you’re looking for! You came for the G-Virus didn’t you! You won’t take it from me! This is my husband’s legacy! Now, where’s that spy you were working with earlier, you know who I’m talking about. 

 

「あなた! あなたは私の夫を殺害したわね! あなたが何を求めているかはわかっているわ! あなたはGウィルスのためにやって来たんでしょう! あなたには渡さないわ。これは私の夫の遺産なのよ!ところで…さっきまで一緒に働いていたあのスパイはどこにいったのかしら…。もちろん誰のことを言っているかわかるわよね」

 

Leon: What?

何?

 

そりゃ、「何?」って言いますよね。

 

Annette: You really don’t know anything do you! Hahaha, you’re so gullible! She’s one of the operatives sent here by the agency. The only reason why she came here was to obtain the G-Virus.

あんた 何も知らないの?

おめでたいわね!

あの女は ある組織の工作員

G-ウィルスを奪うために送られたスパイさ!

 

ここは結構難しい単語がたくさん出てきます。最初の "You really don't know anything do you!" は、最後の付加疑問文さえ気をつければたいして難しくないと思いますが、次の "you're so gullible!" の gullible はあまり見かけない単語です。調べたところ、「だまされやすい」という意味の形容詞だそうです。勉強になりました。

 

続いて "She's one of the operatives sent here by the agency." は、英語的な感じの刷る文章です。まず one of the ~ は比較的なじみのある表現なのですが、 operatives というのは口語的で意味が広く取れるので難しいです。もちろんこれは「操作できる」という意味の形容詞ではなく、米俗語の「スパイ」という意味です。これは英語の数字感覚的なものなのでしょうが、the operative というと、スパイはエイダしかいないような感じに聞こえますが、 one of the operatives というと、スパイがたくさん居て、その中の一人がエイダである、という印象になります(たぶん)。意識して使いたいものです。次の sent は過去分詞で、「送られた」となり直前の one of the operatives を修飾します。「組織によって送りこまれたスパイ」ですな。その次は、The only reason why she came here までが主語で、「彼女がここへ来た唯一つの理由は」です。why ~ 以下が関係副詞として the only reason にかかってくるものと思われます。to obtainは不定詞ですね。~すること、という意味でしょう。obtainは「得る、取得する」という意味で、一見珍しい単語のようにも見えますが、比較的良く使われるような気がします。

 

では直訳します。

 

Annette: You really don’t know anything do you! Hahaha, you’re so gullible! She’s one of the operatives sent here by the agency. The only reason why she came here was to obtain the G-Virus.

 

「あなたは本当に何も知らないのね? あはは、あなたは相当だまされやすいのね。彼女は組織から送り込まれたスパイの一人よ。彼女がここへ来た唯一の理由は、Gウィルスを手に入れることだったのよ」

 

Leon: That’s a lie.

ウソだ

 

他にも"You're a liar" などもよく耳にする表現です。B'zの歌にもそんなのありました。

 

Annette: No it’s the truth. I discovered this when I did a background check on her. She specifically got close to John and became his girlfriend to get information about umbrella.

 本当よ

ここで情報を引き出して分かったわ

研究員のジョンに近づいて――

アンブレラの情報を盗み出していたのよ

 

"It's the truth." ここでは名詞の truth を使っていますが、形容詞を使って "It's true" とするのもよく目にします。「本当よ」という感じでしょうか。background checkというのは専門用語ですね。日本語だと「身辺調査」ということだそうです。前置詞 on が使われているのは、 check on ~ で「~を調べる」というところから来ているのではないでしょうか。この辺の前置詞の感覚を身につけるには、たくさん読んだり聞いたりするしかないのでしょうね。 get close to ~ は「~に近づく」ですが、specifically というのがなかなか曲者です。意味が色々あるので難しいのですが、おそらくここでは「明確に」というような意味だと思います。アネットは、自分で調べたから自信を持っているということなのでしょう。その次のto 不定詞は、「~のために」なのでしょうか? 勿論使っている単語は平易なので、一見簡単そうに見えるのですが、意外ときちんと意味を取るのは難しそうです。

 

英語の話と少しずれますが、前作『バイオハザード』の謎解きに、研究員ジョン(John)の手記のなかに「パスワードは君の名前だ、ADA」というくだりがありました。その伏線(?)が見事にここで回収されているわけです。当時わたしはゲームをプレイしながら「おおー」と感じました。世界観としてはうまくできているなぁと思ったものです。

 

さて、では直訳です。

 

Annette: No it’s the truth. I discovered this when I did a background check on her. She specifically got close to John and became his girlfriend to get information about umbrella.

 

「いいえ、本当のことよ。彼女の身辺調査をしたときに発見したのよ。彼女は明らかにジョンに近づき、恋仲になってアンブレラの情報を引き出していたのよ」

 

もしかしたら、to不定詞の「目的」をより明確にするには「彼女は明らかに、アンブレラの情報を引き出すために、ジョンに近づいて恋人になったのよ」のほうが妥当な訳かもしれません。難しいところです。

 

では次は一気に行きましょう。

 

Leon: That can’t be! I know her; Ada wouldn’t do something like that!

そんなバカな!

彼女はそんな女じゃない!

 

Annette: If you don’t want to believe me I don’t care, your about to die anyway.

そんな事はどっちでもいいわ

お前は もう死ぬんだから!

 

Annette: What happened?

何が 起きたの?

 

"That can't be" は、できる・できないのcanではなく、可能性があるかどうかの意味です。すなわち、「そんなはずはない」「そんなことがあるわけがない」というような感じです。我ながらそのへんのニュアンスをいつどこで身につけたのか思い出せませんが、意味的には「起こりうる」というような感じだと思います。

 

"wouldn't"も、よく目にする単語です。これはかなり機械的に記憶しているのですが、「~しようとしない」という意味です。たとえば、"The door wouldn't open!"といえば、「ドアが開かない!」となります。頑張って色々やってみても~できない、というようなニュアンスです(…とわたしは記憶しています)。「エイダはそんなことをしない」という意味でしょうね。

 

続いてアネット、"If you don’t want to believe me I don’t care, your about to die anyway." if節は you don't believe me までかかって、「もし信じたくなくても」です。I don't careは、日本語で感じるニュアンスよりもうちょっと投げ遣りで、「どうでもいい」「どっちだっていい」という感じなのだそうです。ですので、もし「晩御飯何が良い?」と聞かれて「何でもいいよ」という意味だと思って "I don't care" と答えると、関係がまずくなる、というような話を聞いたことがあります。あまり使わないほうがよい表現のようです*2。その次の your は、 you're のタイポではないかと思います。be about to~で、今まさに~するところだ、という意味ですね。「どっちにしても、お前は今からすぐに死ぬ運命なのだから」という感じでしょうか。

 

Computer Voice (V.O): The self destruct sequence has been activated! Repeat, the self destruct sequence has been activated! This sequence may not be aborted! All employees proceed to the emergency car at the bottom platform!

爆破装置が作動しました

繰り返します

爆破装置が作動しました

停止する事は出来ません

研究員は最下層のプラットフォームから非常車両で脱出して下さい

 

個人的には、バイオハザードシリーズで一番好きな台詞です(笑)。おそらく一生使うことのない表現だと思います。ここで使われる現在完了形、すなわち has been activated という響きが、ものすごく英語的な感じがして非常に魅力を感じるのです。"The self destruct sequence is activated" ではないのです。そして、"This sequence may not be aborted" なのです。このシークエンスは、アボートさせることはできないのです。

 

というわけで今日はこの辺で。

*1:これは日本語の問題ですが、通常、「ところで」という意味で使う場合、普通はひらくものだと思われますが…。

*2:ちなみにこの場合何と答えればよいのか、模範解答を探しましたがみつかりませんでした。要するに、意図としては I like whatever you choose というようなことを言っておけば良いのだと思うのですが、決まり文句としての良い表現が見つかりませんでした。

バイオハザードで英語の勉強

映画を観て英語の勉強をしよう、という試みは良く聞きますが、ゲームも同じくらい効果があるのではないか? というのがわたしの感想です。わたしは『バイオハザード』シリーズがものすごく好きで、シリーズは殆どプレイしているのですが、自分が好きなシーンというのは繰り返し繰り返し見ても全然飽きないので、これをディクテーションや暗誦に使えば、実益を兼ねることができるんでは? と思い、勢いあまってちょっと書いてみました。題材は、オリジナル版の『1』で、ウェスカー隊長が最後に色々とバラす名シーンです。

 

では見ていきたいと思います。まずは英文のスクリプトから。(引用元はこちら

 

Jill: Wesker?

Wesker: You did a fine job, Barry.

Jill: Just as I thought...

Wesker: I think you should stay away from Barry, Jill. I hear that his wife and two daughters will be in danger if he doesn't do everything I tell him to.

Jill: You are so cruel...

Wesker: Well, you don't have to worry about anything, because you'll be free from this world very soon, Jill.

Jill: Why do you have to destroy S.T.A.R.S?

Wesker: That's Umbrella's intention. This laboratory has been engaging in dangerous experiments, and recently an accident has occurred. Anyway, this disaster cannot be made public.

Jill: That's why having S.T.A.R.S. nosing about is so inconvenient. So you're a slave of Umbrella now, along with these virus monsters.

Wesker: I think you misunderstand me, Jill. To me, the monsters you mention mean nothing. I'm going to burn all of them together, with this entire laboratory. I must complete my mission, as ordered by Umbrella. Barry, go up on the ground and wait there.

Jill: Barry!

Wesker: Barry's such a fool. He'll be under the control of Umbrella forever.

Jill: How come both Umbrella and you can intimidate him, by taking his family as hostages?

Wesker: Umbrella? Well, I intimidated him, but it had nothing to do with Umbrella. I just used him for my personal purposes, though both you and Barry seemed to think I was following orders from Umbrella.

Jill: So you're planning something else?

Wesker: If you succeeded in developing the world's most powerful biological weapon, what would you do? What if you were in charge?

Jill: You must stop this now.

Wesker: You're a brave girl. But if I were you, I wouldn't give up such a big discovery. You guys are idiots. No one understands its real value. 

Jill: So, you're going to steal all the research?

Wesker: Better yet. I'm going to show you the Tyrant.

 

 続いて日本語の字幕を確認します。

 

Jill: Wesker?

ウェスカー

Wesker: You did a fine job, Barry.

よくやった バリー

Jill: Just as I thought...

やはりね

Wesker: I think you should stay away from Barry, Jill. I hear that his wife and two daughters will be in danger if he doesn't do everything I tell him to.

まあ バリーを責めるな

私の命令を実行しないと家族の命が危うくなるそうだ

Jill: You are so cruel...

汚いわね

Wesker: Well, you don't have to worry about anything, because you'll be free from this world very soon, Jill.

気にすることはない じきにこの世ともおさらばさ

Jill: Why do you have to destroy S.T.A.R.S?

何故S.T.A.R.S.壊滅を?

Wesker: That's Umbrella's intention. This laboratory has been engaging in dangerous experiments, and recently an accident has occurred. Anyway, this disaster cannot be made public.

アンブレラの意向だ

この研究所は少々危険な実験をしていてね―

実際に事故を起こしてしまった

もちろん公になど出来ない

Jill: That's why having S.T.A.R.S. nosing about is so inconvenient. So you're a slave of Umbrella now, along with these virus monsters.

何かとかぎ回る

S.T.A.R.S.は都合が悪かった…

まるでアンブレラの奴隷ね

…ここのバケモノと同じ!

Wesker: I think you misunderstand me, Jill. To me, the monsters you mention mean nothing. I'm going to burn all of them together, with this entire laboratory. I must complete my mission, as ordered by Umbrella. Barry, go up on the ground and wait there.

思い違いもはなはだしいね

君の言うバケモノなどクズだ

研究所ごと焼きはらってくれる

だがそこまでだよ

私がアンブレラと関わるのは

バリー 地上で待機していろ

Jill: Barry!

バリー

Wesker: Barry's such a fool. He'll be under the control of Umbrella forever.

どこまでもアンブレラにおびえる愚かな男だ

Jill: How come both Umbrella and you can intimidate him, by taking his family as hostages?

家族を盾に取っておきながら!

Wesker: Umbrella? Well, I intimidated him, but it had nothing to do with Umbrella. I just used him for my personal purposes, though both you and Barry seemed to think I was following orders from Umbrella.

おどしはしたがね

アンブレラとは無関係さ

君たちはアンブレラが裏にいると

思いこんでいるようだが―

あくまで私自身のためだ

Jill: So you're planning something else?

この上まだ何か!?

Wesker: If you succeeded in developing the world's most powerful biological weapon, what would you do? What if you were in charge?

たとえば究極の生物兵器を開発したとしよう

さてどうする?

運命は君に委ねられるんだ

Jill: You must stop this now.

踏みにじってやるわ!

Wesker: You're a brave girl. But if I were you, I wouldn't give up such a big discovery. You guys are idiots. No one understands its real value. 

実に勇ましいね

だが無意味な勇ましさだよ

どうかしている

誰も分かっていないんだ

Jill: So, you're going to steal all the research?

横取りする気ね その大発見を

Wesker: Better yet. I'm going to show you the Tyrant.

見せてやろう タイラントだ…

  

ということで結構意訳が入っていることが分かると思います。

 

*********************

 

それでは一文ずつ見ていきましょう。

 

Jill: Wesker?

ウェスカー

Wesker: You did a fine job, Barry.

よくやった バリー

Jill: Just as I thought...

やはりね

 

この辺までは意訳もクソもないですね。殆ど読んだままです。訳にも違和感ありません。

 

Wesker: I think you should stay away from Barry, Jill. I hear that his wife and two daughters will be in danger if he doesn't do everything I tell him to.

まあ バリーを責めるな

私の命令を実行しないと家族の命が危うくなるそうだ

 

このあたりからやや意訳が目立ちます。

"I think you should stay away from Barry, Jill."

直訳すると、「君はバリーから距離をとっておくべきだったね、ジル」となるでしょうか。つまり、バリーに気をつけるべきだったが、君はそうしなかった、という意味になります。ここでのshouldは、~すべきだった(が、しなかった)という意味でよいと思います。

次の"I hear that his wife and two daughters will be in danger if he doesn't do everything I tell him to."は比較的素直な文章ですね。

 

Jill: You are so cruel...

汚いわね

Wesker: Well, you don't have to worry about anything, because you'll be free from this world very soon, Jill.

気にすることはない じきにこの世ともおさらばさ

 

これはなかなか興味深い文です。"because you'll be free from this world very soon, Jill." be free from ~ で、「~から自由になる」ですので、すぐにこの世界から自由になれる、というのが直訳でしょうか。他でも使えそうな表現です。 

 

Jill: Why do you have to destroy S.T.A.R.S?

何故S.T.A.R.S.壊滅を?

Wesker: That's Umbrella's intention. This laboratory has been engaging in dangerous experiments, and recently an accident has occurred. Anyway, this disaster cannot be made public.

アンブレラの意向だ

この研究所は少々危険な実験をしていてね―

実際に事故を起こしてしまった

もちろん公になど出来ない

 

engageは他動詞と自動詞の二つの使い方があるようです。engage~でも、engage in~ でも殆ど同じ意味でしょう。「~に従事する、~にかかわる」という意味になります。現在完了進行形ですので、今の今までずっと危険な実験をしていた、というニュアンスが伝わります。"recently an accident has occurred."これも直訳すると「つい最近、事故も起こしてしまった」となります。"be made public"は熟語で「公にする」ですので暗記しましょう。

直訳すれば「これはアンブレラの意向だ。この研究所はこれまでずっと危険な実験をしてきており、つい最近、事故を起こしてしまった。いずれにしても、この災害は公には出来ない」となると思います。

 

Jill: That's why having S.T.A.R.S. nosing about is so inconvenient. So you're a slave of Umbrella now, along with these virus monsters.

何かとかぎ回る

S.T.A.R.S.は都合が悪かった…

まるでアンブレラの奴隷ね

…ここのバケモノと同じ!

 

ここはわたしも難しくて、文法的には理解できませんでした。"That's why"は決まり文句で「~というわけで」となり、わかりやすいですが、その次にくる"having"の品詞がわかりません。おそらくこれは使役動詞の"have"の進行形で、have + 目的語 + ~させる、つまり、ここではスターズにnosing aboutさせる、という意味なのではないかと思いました。直訳するならば「だから、スターズに周囲を嗅ぎ回らせることが、非常に都合が悪いというわけだった」となるでしょうか。"along with"は「~と一緒に」という意味なので、字幕のとおりです。

 

Wesker: I think you misunderstand me, Jill. To me, the monsters you mention mean nothing. I'm going to burn all of them together, with this entire laboratory. I must complete my mission, as ordered by Umbrella. Barry, go up on the ground and wait there.

思い違いもはなはだしいね

君の言うバケモノなどクズだ

研究所ごと焼きはらってくれる

だがそこまでだよ

私がアンブレラと関わるのは

バリー 地上で待機していろ

 

"To me, the monsters you mention mean nothing" 最初の"the monsters you mention"が主語ですね。関係代名詞が省略されて、"the monsters (which) you mention"「君が言及したこれらのモンスターたち」となります。"mean"は「意味する」ですから、直訳すると「私にとって、君が言及したこれらのモンスターたちは意味がない」となると思います。

 

問題は次です。"I must complete my mission, as ordered by Umbrella"「私は自分のミッションを完遂しなければならないのだ、アンブレラの指示通りに」という意味だと思うのですが、なぜか字幕では「だがそこまでだよ、私がアンブレラと関わるのは」と表現されています。

 

as というのは非常に多くの意味があり、英語を日本語にする場合に非常に困難な単語のひとつだと思います。正直言って、今でもこの単語は意味が分からないので、こういう表現に出会うと、ニュアンスがわからないのが正直なところです。日本語字幕と英文本文では多少ニュアンスが違うような気もします。

 

Jill: Barry!

バリー

Wesker: Barry's such a fool. He'll be under the control of Umbrella forever.

どこまでもアンブレラにおびえる愚かな男だ

 

ここは特に問題ないですね。 

 

Jill: How come both Umbrella and you can intimidate him, by taking his family as hostages?

家族を盾に取っておきながら!

 

"How come"というのは、Eigo with Lukeによると、"How did it come about that" の略で使われ、意味は「どうして?」ということだそうです。非常に口語的な感じのする、難しい表現ですね。文法的には、How comeの後には肯定文の語順で続くのが正しいとのことです。"intimidate"は「~を(脅して)言うとおりにさせる」という意味なので、直訳すると「どうしてアンブレラとあなた(ウェスカー)は、家族を人質にして彼を脅すことができたんですか」となりますので、一種の反語表現になっているということでしょう。つまり「どうしてそんな酷いことができるんだ?」というようなニュアンスだということでしょう。こういう反語表現を使いこなせるようになったら、英語力は相当であるといえるでしょう。

 

Wesker: Umbrella? Well, I intimidated him, but it had nothing to do with Umbrella. I just used him for my personal purposes, though both you and Barry seemed to think I was following orders from Umbrella.

おどしはしたがね

アンブレラとは無関係さ

君たちはアンブレラが裏にいると

思いこんでいるようだが―

あくまで私自身のためだ

Jill: So you're planning something else?

この上まだ何か!?

 

"have nothing to do with"はよく使われるフレーズです。「~には関係ない」ですね。

 

Wesker: If you succeeded in developing the world's most powerful biological weapon, what would you do? What if you were in charge?

たとえば究極の生物兵器を開発したとしよう

さてどうする?

運命は君に委ねられるんだ

 

やってまいりました仮定法。"If you succeeded in~"で、時制が過去になっていますので、ここは現実と異なる仮定をおいている文、すなわちわたしも大の苦手である仮定法そのものです。「もし君が最強の生物兵器の開発に成功したとしたら」ですね。その後に続く文は"what would you do?" ですので、こちらも時制がひとつ過去にさかのぼって、君ならどうする?という意味なります。

 

次の文は少し省略が入っているように見受けました。おそらく、省略せずに書くと"What (would you do) if you were in charge?" となるのではないでしょうか? つまり、「君が責任者なら、どうする?」ということです。これも仮定法ですね。

 

Jill: You must stop this now.

踏みにじってやるわ!

 

このあたりはかなり意訳が入っているようです。直訳すると「あなたは今すぐやめるべきだわ」となるでしょうが、 字幕では意訳されているように、日本語のニュアンスだと随分違和感があります。うまくいえませんが、こうした表現は英語特有だなという気がします。

 

Wesker: You're a brave girl. But if I were you, I wouldn't give up such a big discovery. You guys are idiots. No one understands its real value. 

実に勇ましいね

だが無意味な勇ましさだよ

どうかしている

誰も分かっていないんだ

 

また出てきました仮定法。"If I were you, I wouldn't give up such a big discovery." 「私がもし君の立場なら、こんな大発見は諦められないだろう」というのが直訳ですが、かなり意訳されていることが伺えます。仮定法周りのニュアンスは英語学習者にとっては永遠の課題といえそうです。

 

Jill: So, you're going to steal all the research?

横取りする気ね その大発見を

Wesker: Better yet. I'm going to show you the Tyrant.

見せてやろう タイラントだ…

 

"better yet"が難しいですね。わたしもわかりませんでしたのでググってみたところ、どうも「今の状況よりも(はからずも)もっと良い状況になった」という意味ではないかと思われます。とはいえ文脈に左右される感じもするので、なかなか初学者にはハードルが高そうな表現です。

 

さて、こんな感じで一つ一つ暗誦していけば、たのしく英語が学習できます。ということで、本稿はこのへんで終わりにしたいと思います。次回また元気があれば、他のバージョンも書いてみたいと思います。

マルチリンガルの外国語学習法

 

「英語学習法」ではない、「外国語学習法」である。著者はなんと専門の言語学者ではなく、ふつうの(!)勤め人らしいが、その傍らで複数の言語に親しみ、イランやトルコ文学を翻訳する、翻訳家兼研究者のような活動をされているという。しかし、そのマスターした語学の数が凄い。「はじめに」に、著者がこれまで「かかわってきた」言語が羅列されているので、ざっと紹介してみよう。次のとおりである:

 

・スペイン(カスティーリャ)語

ポルトガル語

カタルーニャ語

・フランス語

・イタリア語

ラテン語

ルーマニア語

・ペルシア語

トルコ語

・正則アラビア語

・聖書ヘブライ語

・ドイツ語

アゼルバイジャン

・パシュトー語

ウルドゥー語

ヒンディー語

ウイグル

ウズベク

・ロシア語

・英語

 

このうち太字にしたものは、「読む」「書く」「話す」の三要素を「一応バランスのとれた状態でこなせる」というらしいから、これは本物のPolyglotである*1。もちろん母語(著者の場合、日本語)が加わるために、操れる言語は10になるという計算である。どういう脳みそをしているのであろうか。

 

さて本書はいわゆるPolyglotものの勉強法であるが、わたしが読んだ限り、あまり一般の役に立つような、いわゆるハウツーの勉強法は殆どかかれていなかった。*2。Polyglot系の本に多いが、むしろこれは、多言語話者(というより、翻訳家か?)がどのように言語というのを捉えているのか? について文字通り興味本位で読む、ある種の「物語」と割り切ったほうがいいだろう。というのも、おそらくこのレベルで語学を志す人というのは、もはや存在自体が珍しいため、そもそも万人に向けた勉強法などが存在するはずもないからだ。言い方は悪いが、こんな新書一冊読んだ程度でPolyglotになれるなどと考えるほうがどうかしている。

 

著者はもともと帰国子女だそうだが、幼少期に明確な母語がなかったために、感情をうまく表現することができず、不安定な時期を過ごしたという。これはバイリンガル系の本を読んでいるとよく読む話で、たしかに自分の考えていることを言語化できないというのは、自己を確立する上でも大きな障害であるようにも思う。少し趣旨が異なるかもしれないが、同じPolyglot系の本で『語学で身を立てる』という良書があるが、こちらにも次のような記述があった: 

 

外国語がどのくらい習得できるかは、日本語がどれだけできるかにかかっている、といっても過言ではありません。アメリカからの帰国子女の母親で「うちの子は英語には困らないのですが、漢字が書けなくて……、英語で話したほうが楽だなんていうんです」と嬉しそうにこぼす人がいましたが、このような子どもは日本で語学を仕事にすることはできません。実際、その高校生は、発音は素晴らしくよいのですが、その話しぶりはアメリカ人の小学生が話す英語そのまま、文章を書かせると子どもの日記みたいな調子で、綴りも間違いだらけというありさまでした。(後略)

 

 

この高校生のような状態であれば、おそらく自分の考えていることを正確に伝えるということは母語でも難しいだろう。というより、日本語が不自由なだけでなく、英語ですら満足に運用できないわけだから、自分の母語がどちらなのかもわからない状態なのかもしれない。わたしはこういう状態に置かれたことがないので想像でしかないが、恐らく感情的に非常に不安定な状態になるのではないだろうか。

 

本書の著者である石井氏も、「小学校高学年になっても、全然年齢相応の言語による自己表現力がなく、まわりとの協調ができない。今風に言えば、わけもなくすぐキレるというやつである。まともな言葉が通じない、粗暴で極度に情緒不安定、最低の問題児であった」と述懐している。現在、海外一世として活躍されている方のブログなどを拝見しても、子女の母語選択にはかなり気を遣っていることが伺える。バイリンガルというのは放っておけばできるものでもないらしい。

 

話がまた逸れたような気がするが、本書の妙味は、ふつうの語学屋ならとても到達できなさそうな領域から語学について語っているところにあるだろう。とくに面白いのは英語に対する概観である。Polyglot的な観点からみた英語という言語はどうやら特殊な言語であるらしく、先に紹介した『語学で身を立てる』の猪浦氏も、他の主たる西洋言語に比べて著しく語形変化が少ない言語だと書かれている。日本人にしてみれば英語の語形変化は十分多いような気がするわけだが、仏語や独語などから見れば圧倒的に少ないのは事実である。そのため、文法上、非常に多彩な解釈が可能になってしまうという言語上の問題が発生してしまうらしい*3。また、やや複雑な文法上の概念として「接続法」、英文法でいうところの「仮定法」に関する例が紹介されている。これは、英語がいかに他の印欧語に比べて接続法が退化しているか、という説明をされているわけだが、残念ながらわたしに語学的な素養がないのでそのエッセンスをうまく伝えることができない。本書をぜひ読まれたい箇所である。(面白いよ)

 

以上どこまで本書の魅力をお伝えできたのか甚だ疑問であるが、いい年こいて「外国語がペラペラになりたい」などという、言わば中二病がなかなか治らないオッサンが読んだら、「やっぱり英語くらいは何とかできるようになりたい…」という気持ちにはなったので、そういう効用は間違いなくあるだろう。

*1:本文中にもあるが、ラテン語は現在では死語であり、日常的に使用する人は殆どいないであろう

*2:「はじめに」にちゃんと断りがある

*3:そのため、英語は慣用句的な用法のバリエーションが多くなり、システマティックに理解することが難しく、要するに理屈じゃない場合が多い…というようなことを何かで読んだが、出典を忘れてしまった

だまされたと言う人には要注意

目も耳も口も節穴だらけの烏合の衆 - いすみ鉄道 社長ブログ

 

新聞はおろか、テレビニュースすら見ないのでまったく時期を逸してしまった感がありますが、それでもわたしの主たるニュースソースであるTwitterやにちゃんまとめサイトなどでも話題になっていることから、遅ればせながら、大きな注目を集めていることがわかりました。何とか河内氏のゴースト問題というやつです。

 

わたしは作曲に明るくないのですが、まあ著名な人の名前を貸したり、元請けのようなかたちで、クレジットに名前が出る人と実際に製作する人が違うということは別に作曲の業界でもあるんだろうな、と思いましたので、最初何が問題なのかよくわかりませんでした。が、その後、後追いで少し記事をいくつか追っかけてみたところ、聾? の方が作曲していたという物語にケチがついたということと、そもそも聾自体が嘘だったのではないか、という二点で批判が殺到しているとのことで、なるほどと腑に落ちました。要するに、消費者(というより、マスコミでしょうか?)の逆鱗に触れているのは

 

・聾者が作曲していたという感動の物語が嘘だったということ

・そもそも聾であるということ自体が嘘である可能性が高いこと

 

この二点が大きな理由になっているわけです。ははあ、なるほど、という気がします。ここから、端的に言うと「だまされていた、感動を返せ!」というような論調につながっていくわけでしょう。よくできたシナリオといえます。

 

第二次世界大戦中、イケイケと戦争を煽っていた新聞社がありましたが、敗戦と同時に、「戦時中は大本営にだまされていた(だからわれわれは悪くない、悪いのはわれわれをだましていた軍部だ)」というようなことを自信満々に書いていた新聞社があったと聞きます。実際、戦争が終わると、「俺は初めから反対だった」という手のひらを返す人間は非常にたくさんいたそうです。それもそのはずで、誰だって戦争の片棒を担いでいたと思われたくありませんから、後出しでポジションを取り直せるものなら誰だってそうしたいはずです。こういう動機があるときに、「だまされていた」というのは非常に便利で巧妙なギミックといえます。なぜなら、実際に戦争を煽っていたことは事実なのですが、その事実を否定せず、矛盾なく自分のポジションを加害側から被害側にスイッチすることができるからです。この場合、悪いのは軍部であり、大本営であり、新聞社はこれらの悪に「だまされた」善良なる社会の木鐸ということになるからです。平和を愛する実に立派な新聞社で、日本の良心です。すばらしい新聞社です。次に手のひらを返すのはいったいいつになるのか楽しみですが、わたしはその新聞をとっていません。

 

大好きな新聞社のことでつい興が乗ってしまい、話が逸れました。それはともかく、「偽作曲家」氏に「だまされた」人たちは、誰にだまされていたんでしょう? なぜ、「だまされていた」というスタンスを取らざるを得ないのか、どういうポジションを守ろうとしていたのか、容易に想像がつくような気が致します。「聾」者が作曲した「感動の」名曲…。こういう、敢えて言いますが「お手軽な」物語を消費したい、という心理こそ、われわれが「だまされてしまう」原因だとわたしは思います。

 

そうなると、あとで「あ、やっちまった」という感情から、「いや、わたしはだまされていただけなんだよ(=だから俺は悪くないよ、悪いのはだましていたTVなんだよ)」ということを言いたくなるのもよくわかります。ですが、それを言っちゃあオシマイというやつですな。どう考えても、だます側とだまされる側に共依存的な関係があるのですから、だまされた側だけが一方的に免責されて、正義面してだます側を断罪するというのは、無粋に過ぎるというものでしょう。

新年の抱負

あけましておめでとうございます。…といっても、大して更新していないブログで挨拶をするほどむなしいものはありません。

 

今年の目標は、ちゃんと勉強することですね。同世代のひとたちが色々なことにチャレンジしている中、何も変化のないわたしの人生に華を添えるのが今年の目指すところであります。

 

昨今、意識しているわけではないのですが、Twitterに費やす時間が減ってきて、多少、精神衛生が改善されたように感じております。その時間はパズドラに向けられているので、相変わらず勉強時間は少ないままなのですが、少なくともTwitterよりもパズドラは健全であり、時間の使い方として「まだマシ」のような気がしています。いやほんと、パズドラ、よくできたゲームですよ。課金し始めてしまうとやばそうなので何とか思いとどまっておりますが…。

 

今年も頑張ってまいりましょう。

トコノクボ

 

 

激しく推奨する一冊。一冊というか、Kindleなので一本(?)というべきか。

 

著者は法廷画(ワイドショウとかでよくある裁判中の風景を描写するあれ)やキャラクターデザインなどを中心に活躍されているというフリーランスのイラストレータである。(著者サイト:トコノクボ

 

あまりネタばれをしてもよくないのだろうが、感想を書く以上、少々内容に触れざるを得ないので未読の方は少し用心して欲しい。(と、言ってもブログで全部読めるが)

 

本書の読後感はさっぱり心地よく、月並みな表現で恐縮だが、殺伐とした現代の世相の中でほっと一息つける、一服の清涼剤といえる。ここのところネットウォッチをしていると、やれノマドだ、グローバルだ、経済が破綻する、というような殺伐としたネタだらけで、少々疲れていたこともあって(そんなものばかり読むわたしが悪いのだが)、わたしは本作にいたく感銘を受けた。なぜこんなに感銘を受けたのだろうか。

 

その理由は、おそらく著者が田舎モノであるにもかかわらず(失礼)、成功したイラストレータとして充実した作家人生を送られているからであろう。

 

比べるのも恐縮だが、わたしも著者と同じようにド田舎の産で、かつて、郷里で上京を夢見ていた頃、毎日下手な絵を描いては、漫画家になりたい、いや、上京したら俺は漫画家になろう、とぼんやり考えていた。ま、わたしの場合は、実際の行動が伴っていないただの妄想だったわけだが…。話が逸れたが、わたしは同じ田舎モノとはいえ、著者の家庭環境と大きく異なっていたせいか、プロになるためには上京するしかないと固く信じていた。今考えると何の根拠があるのかわからないが、漫画やイラストを描く人は、とにかく東京の多摩地区(調布や三鷹、武蔵野あたり)に住んで、出版社に持ち込みをしないとだめだと考えていた。

 

わたしの場合、プロになるための具体的な活動を何もしていないので持ち込みもクソもないのだが、とにかく田舎に居てはプロになれないという信仰があったのだ。おそらくこれは多くの田舎モノに共通する心理だろう。高校を卒業したら、大学でデビューだ、というようなストーリである。とはいえ当時としては致し方ない事情もある。大学進学はともかく、少なくともある程度の都市に出ないと画材すら手に入りにくい時代だったのだ。地方に居てはコミケに行くなど夢物語であろう。当時はアマゾンのような便利な仕組みもないし、今ほど萌えとかオタクの市民権もなかったため、Gペンやスクリーントーンを買うにもアニメイトの通販くらいしか手段がなかったと思う。

 

まあわたしのしょうもない述懐はさて措き、とにかく田舎にいてはプロになれないという信仰があったわけである。ところが著者は後々になって結果的に上京するとはいえ、イラストレータとしての基礎は田舎時代に、パソコンとホームページだけでほぼ築き上げているのだ。

 

わたし、この点に強く感銘を受けたのである。

 

作中に説明があるとおり、著者の家庭環境はお世辞にも恵まれているとはいえない。そのせいで、著者はネット弁慶のわたしの目から見るとずいぶんと色んなことに関して世間知らずで、相当の「情弱」に見える。正直申し上げて、読みながらなぜこんなにモノを知らないのだろうかと思ってしまった。もしかしたらこのような情報格差は、都会と地方、あるいは大学に進学したか否か、というところに起因するものなのかもしれない*1

 

誤解をおそれずに言えば、著者はダウンサイドまみれのスタートラインから、結果としてイラストレータとして確固たる地位を確立されているのである。すばらしいことなのだが、わたしのような小賢しい人間は理由を考えずには居られないのである。なぜ、著者は、イラストレータという、非常に門戸の狭い業界において成功できたのであろうか?

 

 

客観的な視点から見ると、著者のこれまでの活動は結果的に優れたマーケティングであったということだろう。前任者の逝去に伴い空白となったポジションにタイミングよく入り込めたのも偶然ではなく、それまでに積み重ねてきた地道な活動による信用があったからに他ならない。仕事をやる上で必要な営業活動、信用を積み重ねること、需要者のニーズに即してタイムリーにアウトプットを出すこと、プロフェッショナルとしては当然のことなのかもしれないが、著者はそれらがすべてできていたということである。著者の度量の広さもあるのだろうが、自分から自分の市場を狭めるというような無益なことはしていないことも伺える。自分のやりたいことやスタイルに固執して営業の幅を狭めてしまうようなことは、『トコノクボ』を読む限り、殆どないように見える。

 

このように、外側をなぞっていくと、「自らのバリューが最適化されるよう、市場に対して適切にアプローチし、競合と差異化していった」というような話にあるわけであるが、驚くべきことに(?)、著者の場合こうした「ビジネスプラン」だとか「キャリアプラン」というようなことは、意識してやられていたわけではないのである。

 

わたしは最近ネットウォッチばかりをしているせいか、(できるできないはさておき)最短ルートはなにか、どういう市場だとどういうニーズがあるか、などといった外側をなぞる癖がついてしまって、やる前から「これは陳腐だ」「これはレッドオーシャンだから無駄だ」「この企業のマーケはへたくそ」というような、小賢しいことを考える知恵がついてしまった。

 

だが、本書を読んで、小賢しいことを考える暇があったら、まず無心に目の前のことに取り組み、いきなりショートカットしようとせずにまずやれることを丁寧に真摯にやらなければ、と改めて感じた次第である。どうにも、こういう青臭いことを考えるのが厭で、斜に構える癖がつきすぎていたように思う。

 

著者はこれまでの半生を振り返って、すべての点はつながっていて、一つの線になって今につながっている、と述懐されている。もちろんネット弁慶のわたしは、こういう話を読むと反射的にスティーブ・ジョブスの有名なスタンフォードのスピーチを思い出す。

 

Again, you can't connect the dots looking forward; you can only connect them looking backwards. 

 

'You've got to find what you love,' Jobs says

 

ジョブスが言うくらいだから、こういう話にカタルシスを感じるというのは、もしかしたら日本人だけではなく、ユニバーサルな感覚なのかもしれない。

 

まあ、ただの生存バイアスに過ぎないんですけどね。

*1:誤解のないように申し添えておくと、そもそも高等教育が受けられるか否かというのは、本人の能力もさておきながら、家庭環境、もっというと家庭の経済環境に負うところが大きいのではないかと思う。わたし自身、決して裕福ではなく、どちらかというと貧しい家庭に育ったが、著者の家庭のように荒んではいなかった。著者がもし、わたしの家庭に生まれたとしたら、おそらく大阪の美大や工芸大などに進学し、学生生活を通して多くの情報を得ていたであろう。一方、わたしが著者の立場だとして、果たして著者のように真摯な性格に育つかどうか、はなはだ疑問である

ナイト・オブ・ザ・リビングデッド

ここのところゾンビ映画やTVドラマにはまっていて、話題の『ウォーキング・デッド』はもとより、『ワールド・ウォーZ』の原作者が書いたという『ゾンビサバイバルガイド』や、国際政治学の立場からゾンビをまじめに(?)考えるという触れ込みの『ゾンビ襲来 -国際政治理論で、その日に備える』という本をちんたら読んでいる。

 

 

あまり知らなかったのだが、ここ数年、「ゾンビ」というワードが登場する頻度が増えているようだ。わたしも駆け出しのゾンビフリークとして、自分が好きなジャンルが一般に膾炙していくというのはうれしくもあり、一方でメジャー化してしまうことに一抹の寂しさを感じる次第である。

 

とはいえわたしはリチャード・プレストンの『ホット・ゾーン』でウィルスパニックものに感化され、一連の『バイオハザード』シリーズと、そしてせいぜい『ウォーキング・デッド』を観るくらいのもので、いわゆる古典というべきものは殆ど観たことがなかった。色々調べてみると、『アイ・アム・レジェンド』でおなじみの『地球最後の男』、そして、有名なジョージ・A・ロメロ監督の『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』のふたつが、いわゆる「ゾンビもの」の元祖といわれることが多いらしい。両方とも名作の誉れ高いが、モノクロ時代の映画なので、われわれ世代からするとなかなか観る気がしないというのが正直なところだ。というわけで、これまでずっと敬遠していたのだが、今回意を決して(笑)『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』を観てみたところ、意外に良かった。さすがに今観るとありきたりのプロットのように感じてしまうわけだが、これが元祖だと思うと理屈が逆なんだと自分に言い聞かせる。むしろ映像などは、CG全盛の今からすると、よくもまあ特撮もなくここまで撮ったもんだなぁと感心した。下手すると80年代の日本の映画のほうがうそ臭いかもしれない。これが45年前の作品というから驚きである。

 

ということで、ゾンビ・フリークを名乗るにははずせない「古典」をようやく観れたのでご満悦である。今後もめぼしいゾンビものは片っ端から観ていこうと、本当に非生産的な決意をさせてくれた一作であった。